医療法人ABCクリニック 新妻産婦人科

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産科

不妊治療について

地方と都市をつなぐ新しい不妊治療のかたち

2023年9月、当院は東京にある不妊治療専門クリニック「浅田レディース品川クリニック」と提携し、福島にいながらでも、高度不妊治療体外受精・胚移植を受けられる体制を整えました。

しくみはこうです。体外受精・胚移植に必要な採卵を行うまでの注射・エコー・採血・検査といった一連の治療を当院で行います。そして、採卵・培養、受精卵凍結・胚移植・凍結保存管理など、より専門性と技術が必要になる治療を東京で行うのです。

いわば、地方と都市部のハイブリッド型体外受精です。

すると、なんと、導入から1年間、治療に進んだ10名のうち5名が妊娠したのです。

妊娠率50パーセントという結果に、医師も助産師一同みな、驚きとともに、大きな希望を感じています。

この体制により、東京までの通院はたった3回です。「初診」「採卵」「胚移植」のときだけでよくなりました。さらに、浅田レディース品川クリニックは土日祝・夜間も診療しているため、仕事をわざわざ休まなくても、休日や連休を利用して治療を受けることも可能です。

一方、当院での通院は7回です。主な目的は、排卵誘発剤の注射とエコー検査です。こちらも通院の負担を軽減できるよう、排卵誘発剤は自己注射を選択できるようにしています。自宅で注射を打てるため、7回の通院を約半分程度に軽減できます。

通院負担が軽くなれば、精神的にも安定し、治療への前向きな気持ちが自然とうまれれてくるものです。これまでかなりストレスフルだった治療を、ストレスフリーにと近づけることができたのです。

地方と都市部のハイブリッド型体外受精のメリット

都市部・東京
  • 東京へ行くのは、初診・採卵・移植の3回だけでOK
  • 土日祝を活用できるので、仕事を休まなくてもOK(夫婦での受診もしやすい)
  • 予約のとりやすさとスピード感のある診療
  • 最先端の技術での治療が可能
地方・福島
  • 東京で行う治療以外の検査・注射・超音波に対応(7回)
  • 自己注射対応で7回の通院回数を約半数に軽減することも可
  • 東京のクリニックと同レベルの最新の超音波機器の導入で安心
  • 休日や時間外診療で働く女性にも対応
  • 互いのクリニックが密なコミュニケーションで患者をサポート

治療のスピードも格段に向上

不妊治療は通常、「検査」→「タイミング法」→「人工授精」→「体外受精・胚移植」と、段階的に高度なものにステップアップしていくのが一般的です。順調に進めればよいのですが、地方では体外受精を行える医療機関が限られており、一つステップを進むのにも数か月から1年かかることも少なくありません。

実際、当院に来た一人の女性は、県外の大学病院で2年間不妊治療を続けていました。タイミング法を10回、人工授精を13回受けましたが、なかなか体外受精には進めなかったそうです。こうしたケースは地方では決して珍しくないのです。ところが浅田レディース品川クリニックに紹介すると、その翌週には初診の予約が取れました。その後すみやかに、体外受精・胚移植に進むことができたのです。

特に35歳を過ぎた女性が妊娠率を落とさずに出産を目指すには、一日でも早く体外受精へ進む決断と実行が大切だと考えています。卵子の老化を考えると、時間のロスは大きなリスクになるからです。

その点、東京のクリニックとの連携は大きな力になります。体外受精・胚移植は毎月実施可能で、例え1回目がうまくいかなくても翌月すぐに次のチャレンジに進めます。治療が月単位で進められることで落ち込んでいる暇すらなく、前を向いて治療に取り組む事ができるのです。

この提携を決めたのは、ある学会で浅田レディース品川クリニックの院長と出会い、その最先端の治療体制にふれたことがきっかけでした。見学や対話を重ねるなかで、「この連携で地方の医療が変わる」という手応えを感じ、提携をスタートさせたのです。

この提携は東北地方では当院が初で、全国各地で同様の試みが始まっており、今後さらに広がることが期待されます。最近では浅田レディース品川クリニック側から当院に患者を紹介いただくケースもあり、地元での継続的なフォロー体制にも貢献しています。

大事なのは、格差を嘆くことではなく、地域の枠を超えて手を取り合うこと。医療の格差は、連携と工夫で乗り越えられるのです。地方で高度不妊治療をあきらめかけていた多くの人たちに、もう一度前を向いてもらいたいと願っています。

「あきらめなくていい」を実現する卵子凍結という選択肢

妊娠・出産は女性の人生における大きな選択の一つです。

今すぐに妊娠・出産ができなかったり決断できなかったりしても「将来の可能性を残しておきたい」、そう思うのは自然なことではないでしょうか。

たとえば、30歳でAMHが0.07だったという女性のケース。この場合、妊娠にチャンスを逃さないためには、すぐに体外受精に進むべきケースです。けれど、そのとき、パートナーがいない、キャリア上どうしても今は出産に踏み切れないという事情だったらどうでしょうか。そんなときに考えられるのが卵子凍結という選択肢です。

卵子凍結とは、受精前の卵子を凍結し保存しておくことです。そして、妊娠・出産の準備が整ったときにその凍結した卵子を使って体外受精・胚移植をすることができます。

卵子凍結による妊娠率は、年齢や卵子の状態などによって異なるため、妊娠率を一概に示すことは難しいのが実情です。しかし、若いときに凍結された卵子であれば、妊娠の成功率は上がることが分かっています。質の良い卵子であればあるほど、移植した際に1回で成功する確率も上がり、不妊治療を長引かせずにすみます。

卵子凍結には、「医学的適応」と「社会的適応」の二つがあります。

医学的適応は、がん治療などで卵巣機能が失われる可能性がある場合に、抗がん剤や放射線治療の前に卵子を採取・凍結しておくものです。

一方、社会的適応は、医学的な理由ではなく、ライフプランや家庭の事情などにより妊娠・出産を先延ばしにしたいと考える女性の選択肢です。

たとえば、次のような事情がある場合、自分の「妊娠しやすい時期」の卵子を保存しておくことで、将来的な妊娠に備えることができます。

  • パートナーがいない
  • 仕事が忙しく妊娠のタイミングがとれない
  • 親の介護などで今は出産できない

なお、日本産科婦人科学会は、社会的適応による卵子凍結について「推奨も否定もしない」という中立の立場をとっています。

ただ、卵子凍結を行っても必ずしも妊娠できるというわけではありません。どれだけ健康な卵子を凍結していても、移植するタイミングの年齢が高くなると、妊娠の成功率は下がり、出産時のリスクも高くなります。また、卵子凍結は、保険適用外の自費診療で採卵には30万円~40万円ほどかかり、保存費用も別途必要です。

たとえば、10個の卵子を3年間保存すると、保存費用としておよそ25万円~30万円が上乗せされることになります(※浅田レディース品川クリニック参照目安)。

今、都市部では、社会的適応での卵子凍結を行う医療機関が増えています。東京都は2023年に社会的適応の卵子凍結に対し、最大30万円の助成制度をスタートさせ、注目が集まりました。その後、大阪などほかの自治体にも広がり、一部企業では福利厚生として助成金を支給するケースも見られるようになっています。

しかし、やはりこうした動きも都市部に集中しており、地方では技術的に対応できる施設が限られているうえ、社会的適応での凍結を受け入れていない医療機関も少なくありません。情報不足や社会的理解の遅れもあり、「卵子凍結」という選択肢自体があまりしられていない地域も多いのが現状です。

当院では、卵子凍結を希望する人も、浅田レディース品川クリニックに紹介しています。人生の選択肢を、少しでも増やしたい。そう願うすべての女性に、必要な情報と医療を届けていきたいからです。以前であれば「キャリアか、出産か」と、どちらかをあきらめなければいけなかった。しかし今は「どちらの可能性も残す」選択肢があるのです。

もっと明るく、もっと楽しい方へ

今、当院には笑顔があふれています。特に不妊治療に通う患者さんたちの表情が、ここ最近ぐっと穏やかになってきたのを感じます。悲壮感はなく、メンタル面もとても安定していて、「そのうち妊娠できる」と本人も周囲も自然に思える、そんな前向きな空気が広がっています。

産婦人科医として40年やってきましたが、不妊治療の現場がこれほど明るくなってきたのを目にするのは、正直はじめてのことです。

「もう次の予約、とれました!」「通院が楽しみになりました」「東京の通院のついでに観光も楽しんでます」と笑顔でこんな報告を受けるたび、「毎月、体外受精にチャレンジできる治療体制」のおかげだと実感しています。

以前は、「通院自体がつらい」という声も少なくなりませんでした。「妊婦さんと同じ待合室にいるのがつらい」「妊娠している人を見たくなくて通院できなくなる」という方もいたのです。時間帯を分けるなどの配慮もしてきましたが、今は不思議とそうした声も減りました。患者自身が前向きで心に余裕があるからこそ、周囲との関係も自然と穏やかになっているように思えます。

これまで不妊治療と妊婦健診が同じ空間で両立することは難しいと思っていましたが、明るい空気が広がることで、むしろ共存できるようになってきたのです。実際、院内全体が明るくなったことで、これまでなかなか妊娠しなかった人が自然妊娠するというシナジー効果まで感じるようになりました。

気持ちが妊娠に与える影響は、やはり小さくないのだと思います。また、かつて治療をあきらめた方が、「もう一度やってみたい」と当院を再び訪れてくれることも増えてきました。治療を支える側としてこんなに嬉しいことはありません。今回の提携によって、医療機関同士が情報をしっかり共有し安心して治療を進めることができます。

患者にとっては、専門的な治療は東京で受けられ小さな不安や日常のサポートはいつでも当院に頼れることで「常に誰かがそばにいる」ような安心感があるはずです。

そしてかつてのように「紹介して終わり」ではなくずっとそばで支え続けられる、そのことが今のいちばんのやりがいになっています。

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